追視とは?
「追視(ついし)」とは、追視(visual tracking)とは、目で対象物を追いかける動きのことです。発達の早い時期から見られるスキルで、人や物を「見る」→「注意を向ける」→「理解する」という一連の発達の基盤になります。
自閉症の子どもたちの中には、この追視がスムーズにできにくいケースがあります。
自閉症の子どもと追視の特徴
- 人の顔や視線を追いにくく、物や光などに注意が偏ることがある
- 一瞬は見るけれど、すぐに視線が外れてしまう
- ゆっくりした動きなら追いやすいが、速い動きは苦手な場合がある
追視の難しさは「無関心」ではなく、感覚処理や関心の向き方の違いから生じています。
背景にある要因
- 感覚処理の特性
視覚情報を処理するスピードや質が独特で、特定の刺激に過敏または鈍感。 - 社会的動機づけの違い
他者との関わりよりも、規則性や自分の興味対象に注意が向きやすい。 - 神経発達の影響
脳の社会認知ネットワーク(視線処理、顔認知に関与)が通常と異なる働きを示すことが報告されています。
「無理に目を合わせた方が良いの?」
追視は「見る力」そのものの発達、アイコンタクトは「人とやり取りをするための見る力」といえます。人と目を合わせるという事は、人と関わることそのものが楽しい・意味があると感じること(社会的動機づけ)に大きく関わります。
であれば、確かに目を合わせられた方が良い、と感じるかもしれませんし、自閉症の子に対して「見る」を求めるような働きかけをしてしまいそうになりますが、答えは否です。
自閉症のお子さんは、感覚の偏り等からそもそも人の顔を見ることや情報が過密になる環境に苦痛を感じやすい特性がありますので、無理に目を合わせたり、注視を強要するような働きかけは好ましくないです。(こどもの最善の利益の保障の観点でも良くない)
つまり支援で重ねるべきことは、まずは「興味のあるものへの注目」それらを介在し、「人と一緒にいると楽しい」「人を介して好きなものが得られる」といった経験を大切にしていくことです。
そして、本人の興味関心から、注目や追視を促す環境設定を行い、その中でそれらの興味関心を介在して「やりとり」が生まれていくことを支援する必要があります。
アイコンタクトは、「相手を見る」「相手と目を合わせる」行為であり、相手に関わりたい・相手とやりとりしたいという内面的な動機づけが必要ですので、その前の土台づくりからスタートしましょう。
支援の視点
それでは、アイコンタクトはどのようにして発達していくのか整理していきます。
生後2か月前後:人の顔をじっと見ることが増える
生後2〜3か月:動く物を追視し始める
生後3〜6か月:人の顔を見て微笑むなど、アイコンタクトのやりとりが増える
生後6〜9か月:指差しや視線の共有など「共同注意」につながっていく
※上記は一般的な目安であり、必ずしもこの通りに発達するわけではありません。
またこどもの発達には速度の多様性があり、一人ひとりのペースを尊重することが大切です。
上記をみてもわかるように、土台としては 追視 → アイコンタクト の順に発達していくのが一般的です。
安心できる環境での関わり
強い光や雑音を避けたり、空間の構造化を図りどこを見ればよいかがわかりやすい(追視がしやすい)環境を整える。
人と物を結びつける工夫
好きな物を大人の顔の近くに提示するなどして、人と対象を一緒に見る体験を増やす。
視動きが分かりやすい遊び
バブル遊び、風船、カラーシフォン、手遊びなど、動きが分かりやすい活動を通して視線の切り替えを練習する。
音と組み合わせる
鈴を鳴らしながら動かす、音が出る・光るおもちゃを使うなど、複数の感覚を同時に刺激することで、注意を引きやすくなります。
専門職の評価と支援
ST(言語聴覚士)やOT(作業療法士)による発達評価や、描画、自立課題等の個別プログラムが有効です。
ステップアップの流れ
- 静止している物をじっと見る練習
- 左右の動きを追う
- 上下や斜めの動きを追う
- 近い距離から少しずつ遠くへ
- 人と一緒に対象を見る(共同注意)へ発展
追視やアイコンタクトの発達には、子ども一人ひとりのペースがあります。ヒトツナでは、遊びを通じて無理なく育てていく関わり方や、ご家庭でできる支援方法をお伝えしています。お子さまの発達で気になることがあれば、お気軽にご相談ください。